
濾過(ろ過)とは、液体や気体などの流体をろ材(フィルター)に通し、流体中に含まれる固体粒子や不純物を分離・除去する操作です。
身近な例ではコーヒーフィルターや空気清浄機がありますが、製造業ではより重要な役割を担っています。スラリーから固形分を回収する、原料や製品への異物混入を防ぐ、含じんガスから粉体を捕集するなど、品質維持や歩留まり向上に欠かせない工程の一つです。
しかし、ろ過性能は単純に「フィルターの孔が細かいほど良い」というものではありません。粒子の大きさや形状、流体の粘度、運転圧力、流量など多くの要因が関係します。
本記事では、ろ過の仕組みと種類、製造業での活用例、そして「同じ10μmでも性能が違う」理由やフィルター選定で失敗しないポイントまでを、焼結金属フィルターメーカーの視点で解説します。
この記事でわかること
- ろ過の定義・仕組みと、ほかの分離方法との違い
- ろ過の種類(駆動力・ろ材・ろ過機構・膜ろ過)
- 「同じ10μm」でも性能が違う理由と、絶対ろ過精度・公称ろ過精度の違い
- フィルター選定で確認すべき5項目と、よくあるトラブル
- 積層焼結金網フィルターが向くケース
目次
1. ろ過の定義と役割
ろ過とは、固体粒子を含む液体または気体を多孔質のろ材に通し、粒子と流体を物理的に分離する操作です。ろ材を通過した流体を「ろ液」、ろ材に捕捉された固体を「ろ過残さ」、ろ材表面に堆積した粒子層を「ろ過ケーキ」と呼びます。
製造業におけるろ過の主な目的は以下のとおりです。
- 製品への異物混入防止
- スラリーの固液分離
- 粉体の回収
- ポンプ・バルブ・計測機器などの設備保護
- 製品品質の安定化
- 排ガスや圧縮空気の清浄化
特に食品・医薬品や粉体を扱う工程では、わずかな異物や凝集粒子が製品不良や設備トラブルにつながるため、工程に合ったろ過設計が重要になります。
2. ろ過とほかの分離方法との違い
混同されやすい分離方法との違いを整理します。
| 分離方法 | 原理 | 主な用途 |
|---|---|---|
| ろ過 | ろ材で粒子を捕捉 | 固液分離、異物除去、集じん |
| ふるい分け | 粒径で分級 | 粉体の粒度調整 |
| 沈降 | 密度差と重力を利用 | スラリー濃縮 |
| 遠心分離 | 遠心力を利用 | 微粒子の固液分離 |
| 吸着 | 表面に物質を保持 | 臭気・溶存成分の除去 |
| 蒸留 | 沸点の差を利用 | 液体成分どうしの分離 |
ろ過は「溶けていない固体」を分ける操作のため、食塩水の食塩のように液体に溶けている成分は、通常のろ過では分離できません。溶存成分の除去には、吸着や蒸留、逆浸透膜などが使われます。
実際の工程では複数の方法を組み合わせることも多く、例えば電池材料スラリーでは、沈降や遠心分離で粗分離を行った後に、ろ過で微粒子を除去することがあります。
3. ろ過の仕組み(基本原理)
差圧がろ過の駆動力
ろ過は、フィルターの入口と出口の圧力差(差圧)によって流体が押し出されることで進みます。一般に差圧が大きいほど流量は増加しますが、必要以上に差圧を高めると問題が発生します。
- フィルターの破損
- ろ材の変形
- 粒子の押し込み(ろ材内部への食い込み)
- 目詰まりの促進
そのため、長期運転では「初期差圧」と「洗浄・交換の目安となる差圧」をあらかじめ決めて管理することが大切です。
表面ろ過と深層ろ過の違い
ろ材のどこで粒子を捕捉するかによって、ろ過は大きく2つに分けられます。
| 方式 | 捕捉の仕方 | 特徴 |
|---|---|---|
| 表面ろ過 | 主にろ材の表面で粒子を捕捉 | 捕捉粒子を回収しやすい/逆洗しやすい/ろ過精度が安定しやすい |
| 深層ろ過 | ろ材の内部(厚み方向)で粒子を捕捉 | 粒子の保持容量が大きい/長寿命化しやすい/洗浄再生が難しい場合がある |
ニチダイフィルタの積層焼結金網フィルター「ポアメット」は表面ろ過構造のため、逆洗や洗浄による再生に適しています。
ケーキろ過と清澄ろ過
ろ過は、処理する流体の固形分濃度によっても考え方が変わります。
- ケーキろ過:固形分濃度が高いスラリーなどで、ろ材表面に堆積した粒子層(ケーキ)自体がろ材として働く方式。固形分の回収や脱水を目的とする工程で用いられます。
- 清澄ろ過:固形分がわずかな液体から微粒子を取り除き、液を清澄にする方式。飲料や薬液の仕上げろ過、異物除去などで用いられます。
4. ろ過の主な種類
ろ過は「何の力で流すか」「何でこすか」「何をろ過するか」によって分類できます。
駆動力による分類
- 重力ろ過:液体の自重を利用する方式。装置が簡単で、浄水場の緩速ろ過などに用いられます。
- 加圧ろ過:ポンプやガス圧で上流側を加圧する方式。処理速度を確保しやすく、工業プロセスで広く使われます。
- 真空(減圧)ろ過:下流側を減圧して吸引する方式。実験室で行う「吸引ろ過(ブフナー漏斗を使うろ過)」もこの一種です。
- 遠心ろ過:遠心力を駆動力とする方式。固形分の脱水などに用いられます。
ろ材による分類
| ろ材 | 主な特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| ろ紙 | セルロースなどの繊維。使い捨てが基本 | 分析・実験、少量の液体ろ過 |
| ろ布(織布・不織布) | 面積を大きく取りやすい | フィルタープレス、バグフィルター(集じん) |
| 金網(織金網) | ステンレスなど。洗浄しやすい | ストレーナー、粗ろ過 |
| 焼結金属 | 金網・金属粉末・金属繊維を焼結。耐熱・耐圧・洗浄再生性に優れる | 高温・高圧ろ過、ポリマーろ過、ガスろ過 |
| 膜(メンブレン) | 微細で均一な孔を持つ | 微粒子・細菌・高分子の分離 |
| 粒状ろ材(砂など) | 層状に充填して使用 | 浄水処理の砂ろ過 |
| 活性炭 | 主に吸着で除去 | 臭気・有機物の除去 |
ろ過する流体による分類
- 液体ろ過:水・油・薬液・飲料・スラリーなどが対象。異物除去や固液分離が主な目的です。
- ガスろ過:圧縮空気・排ガス・プロセスガスなどが対象。粉じん回収、異物除去、設備保護が主な目的です。
- ポリマーろ過:高温・高粘度の溶融樹脂から、ゲル・炭化物・金属異物などを除去します。フィルムや繊維の品質に直結する重要工程です。
膜ろ過(精密ろ過・限外ろ過など)
膜を使うろ過は、分離できる粒子の大きさによって次のように区分されます。
| 区分 | 分離サイズの目安 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 精密ろ過(MF) | 約0.05〜10μm | 微粒子・細菌の除去 |
| 限外ろ過(UF) | 分子量約1,000〜30万程度の物質(分画分子量で表示) | たんぱく質・コロイドなどの分離・濃縮 |
| ナノろ過(NF) | 孔径約2〜10nm程度 | 硬度成分・低分子有機物の除去 |
| 逆浸透(RO) | 孔径約2nm未満(塩類・イオンレベル) | 純水製造、海水淡水化 |
※区分の境界は文献やメーカーによって多少異なります。
金属フィルターは主に数μm以上の粒子を対象とする領域で使われ、膜ろ過の前段(プレフィルター)や、膜が使えない高温・高圧・高粘度の条件で力を発揮します。
5. 業界別に見るろ過の活用例
食品・飲料
飲料・調味料などの液体製品の異物除去、充填前の仕上げろ過、CIP洗浄液の循環ラインでの異物捕集などに使われます。衛生面から、洗浄しやすく繰り返し使えるステンレス製フィルターが選ばれることが多い分野です。
医薬品・化粧品
原薬や薬液の異物除去・分級、充填工程での品質確保に加え、窒素などのプロセスガスやスチームのろ過にも用いられます。コンタミネーション(異物・汚染の混入)を防ぐため、脱落物が出にくいろ材や洗浄性が重視されます。
化学・樹脂
触媒の回収、薬液や反応ガスの異物除去、溶融樹脂のポリマーろ過などに使われます。耐薬品性・耐熱性・耐圧性を持つ材質選定が重要です。
粉体・電池材料
スラリーの固液分離や、粉体輸送・集じん工程での粉体捕集に使われます。粉体工程では、次の章で解説する粉体特性への配慮が欠かせません。
6. 粉体工程におけるろ過の重要性
実際の製造現場では、粒径だけでなく「粉体特性」がろ過性能を大きく左右します。
粉体の付着性
粒径が大きくても、吸湿しやすい・粘着性がある・油分を含むといった粉体は、目詰まりが発生しやすくなります。
粉体の凝集性
電池材料や樹脂粉末では、微粒子同士が凝集して実際の粒径が変化することがあります。設計上は10μmの粒子でも、運転中には数十μmの凝集体になる場合があります。
粉体の帯電性
リチウムイオン電池材料や樹脂粉体では、帯電によってフィルター表面へ強く付着することがあります。この場合は単なるろ過精度ではなく、表面性状・逆洗性能・ろ材構造も重要になります。
7. なぜ同じ10μmフィルターでも性能が違うのか
フィルター選定で最も誤解されやすいポイントです。2社のフィルターが同じ「10μm」と記載されていても、性能が同じとは限りません。主な理由は次のとおりです。
- 捕集効率の違い
- 評価方法(試験粒子・試験条件)の違い
- 流量条件の違い
- 差圧条件の違い
- 粒子形状の違い
絶対ろ過精度と公称ろ過精度
ろ過精度の表示には、大きく2つの考え方があります。
| 表示 | 意味 | 注意点 |
|---|---|---|
| 絶対ろ過精度 | 規定の試験条件で、その粒径以上の粒子をほぼすべて(例:99.9%以上)捕捉できる粒径 | 同じ「絶対」表示でも、捕集効率の基準(99.9%か99.98%かなど)はメーカーにより異なる |
| 公称ろ過精度 | その粒径の粒子を一定の割合(例:70〜90%程度)捕捉できる粒径 | 標準化された試験方法がなく、表示粒径の粒子の一部は通過する |
例えば同じ「10μm」でも、絶対ろ過精度の10μmと公称ろ過精度の10μmでは、10μm以上の粒子がどれだけ下流に流れるかが大きく異なります。カタログの数値を比較するときは、どちらの表示か、捕集効率は何%か、どの試験方法で測定したかを必ず確認しましょう。
そのため実際の選定では、ろ過精度だけでなく、次の項目までセットで確認することが大切です。
- ろ過精度(絶対/公称の別)
- 捕集効率
- 許容差圧
- 流量
- 実液での評価結果
8. フィルター選定で確認すべき5項目
① 何を除去したいか
異物除去なのか、製品(固形分)の回収なのかを整理します。目的によって、適したろ過方式やろ材が変わります。
② 粒子特性
粒径・形状・凝集性・付着性を確認します。
③ 流体条件
液体・ガス・ポリマーの別に加え、粘度・温度・圧力・流量を把握します。
④ 洗浄方法
使い捨て交換か、逆洗・超音波洗浄・薬液洗浄で再生して使うかを検討します。
⑤ 許容差圧
長期運転を考慮して、洗浄・交換の目安となる差圧の管理値を設定します。
焼結フィルターの選び方をさらに詳しく知りたい方は、【焼結フィルターの選び方】3つの軸とメーカー実績が選択の決め手もあわせてご覧ください。
9. ろ過でよく発生するトラブルと原因
| トラブル | 主な原因 | 見直しの方向性 |
|---|---|---|
| 粒子が抜ける | ろ過精度不足、シール不良、ろ材の破損 | ろ過精度(絶対/公称)の再確認、シール部・ろ材の点検 |
| 差圧が急上昇する | 高濃度スラリー、凝集、付着、ろ過面積不足 | ろ過面積の拡大、前段での粗ろ過、逆洗条件の見直し |
| 流量が低下する | 目詰まり、粘度変化、温度変化 | 洗浄・再生、運転温度の管理 |
| フィルター寿命が短い | 許容差圧の超過、不適切な洗浄、材質のミスマッチ | 差圧管理値の設定、洗浄方法の適正化、材質の見直し |
トラブルの多くは、フィルター単体ではなく「粒子特性・流体条件・運転条件」との組み合わせで起こります。症状が続く場合は、使用条件を整理したうえでメーカーに相談するのが近道です。
10. 積層焼結金網フィルターが向くケース
次のような課題がある場合、積層焼結金網フィルターが有力な選択肢になります。
- フィルター交換頻度を減らしたい:洗浄再生による繰り返し使用が可能です。
- 高温環境で使用したい:金属製のため高温プロセスにも対応しやすくなります。
- 高差圧に耐えたい:積層構造によって機械的強度を確保できます。
- 逆洗を行いたい:表面ろ過構造のため、逆洗による再生との相性に優れています。
- ポリマーやスラリーをろ過したい:高粘度流体や高負荷条件でも使用実績があります。
※図中の捕集効率の数値は説明用のイメージです。
11. ニチダイフィルタの積層焼結金網フィルター
ニチダイフィルタでは、複数のステンレス金網を焼結技術によって一体化した積層焼結金網フィルターを製造しています。代表製品の「ポアメット」は、液体・ガス・ポリマーろ過から、発泡・整流・粉体処理まで幅広い用途に活用されています。
| 項目 | ポアメットの仕様・特長 |
|---|---|
| 構造 | 5層の金網を焼結して一体化(標準材質:SUS316L) |
| ろ過精度 | 2〜200μm(型番P2〜P200) |
| 使用温度 | 最高480℃まで連続使用が可能/-270℃の極低温下でも使用可能 |
| ろ過方式 | 表面ろ過構造で逆洗効果が高く、洗浄により繰り返し使用可能 |
| 特長 | 高強度・耐熱性・耐寒性・高密度・洗浄性 |
※仕様は製品ページ記載の内容です。詳細な仕様は製品カタログをご確認ください。
また粉体工程では、給気・脱気・流動化・架橋防止など、ろ過以外の用途にも応用されています。使用済みフィルターの再生には、フィルター洗浄サービスもご利用いただけます。
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12. ろ過に関するよくある質問
Q1. 濾過とろ過の違いは何ですか?
A. 意味は同じです。「濾」の字は常用漢字に含まれないため、新聞や教科書、技術資料などでは「ろ過」と表記されることが多くなっています。
Q2. ろ過と蒸留の違いは何ですか?
A. ろ過はろ材を使って液体中の「溶けていない固体」を分離する操作で、蒸留は沸点の差を利用して液体の成分どうしを分離する操作です。食塩水の食塩のように溶けている成分は、ろ過では分離できません。
Q3. 急速ろ過と緩速ろ過の違いは何ですか?
A. どちらも浄水処理で使われる砂ろ過の方式です。緩速ろ過は1日4〜5m程度のゆっくりした速度で、砂層表面の微生物の働きも利用して浄化します。急速ろ過は1日120〜150m程度の速い速度で、薬品で凝集・沈殿させた後の濁質を砂層で物理的に取り除きます。
Q4. ろ過精度が細かいほど性能は高いですか?
A. 必ずしもそうではありません。ろ過精度を細かくすると、目詰まりや差圧上昇が早まり、流量の低下や交換頻度の増加につながることがあります。除去したい粒子の大きさと、許容できる差圧・流量のバランスで選ぶことが重要です。
Q5. 粒径だけでフィルターを選べますか?
A. 粒径だけでは選べません。粒子の凝集性や付着性、流体の粘度・温度、流量、洗浄方法なども性能に影響するため、使用条件を整理したうえで選定することをおすすめします。
Q6. フィルターの交換・洗浄時期はどう判断しますか?
A. 差圧、流量、品質、運転時間などを総合的に判断します。一般的には、初期差圧からの上昇幅や、あらかじめ決めた差圧の管理値に達した時点を目安とします。
Q7. 金属フィルターは洗浄して再利用できますか?
A. 使用条件と洗浄方法が適切であれば、再生して繰り返し使用できる場合があります。逆洗・超音波洗浄・薬液洗浄などの方法があり、汚れの種類によって適した方法が異なります。
Q8. フィルターとストレーナーの違いは何ですか?
A. 一般的に、ストレーナーは配管内の比較的大きな異物を除去して下流の機器を保護する目的で使われ、フィルターはより細かな粒子の捕捉に用いられます。詳しくはストレーナーとは?種類・仕組み・選び方を用途別に解説をご覧ください。
13. まとめ
ろ過とは、流体中の固体粒子をろ材によって分離する技術です。しかし実際の製造現場では、孔径(ろ過精度の数値)だけで性能は決まりません。粒子の形状や凝集性・付着性、流体の粘度、運転差圧などが複雑に影響します。
特に粉体・スラリー工程では、「ろ過精度」だけを見るのではなく、「絶対/公称の表示」「目詰まりしにくさ」「洗浄再生性」「差圧管理」まで含めて検討することが重要です。
ニチダイフィルタの積層焼結金網フィルターは、ろ過精度と機械的強度、洗浄再生性を両立し、高温・高圧・高粘度条件にも対応しやすいことが特長です。ろ過工程の改善やフィルター選定でお困りの際は、お気軽にご相談ください。
ろ過工程の改善・フィルター選定でお悩みの方へ
流体の種類・温度・圧力・想定異物サイズ・洗浄条件などの使用環境に応じて、最適なろ材構成をご提案します。まずは製品カタログをご確認いただくか、お問い合わせフォームから個別仕様をご相談ください。
