
製造業において、設備の生産性を最大化することは企業の競争力維持・強化の鍵となります。しかし「設備は動いているのに思うような成果が出ない」「どこに改善の余地があるのかわからない」といった課題を抱える製造現場は少なくありません。そこで重要となるのが設備総合効率(OEE)という指標です。
本記事では、設備総合効率の基礎知識から計算方法、具体的な改善策まで、現場で実践できる内容を詳しく解説いたします。
設備総合効率(OEE)とは
設備総合効率(Overall Equipment Effectiveness)とは、製造業において設備の総合的な効率性を測定する最も重要な指標の一つです。この指標は、設備が本来持つ能力に対してどの程度効率的に稼働しているかを、時間・性能・品質の3つの側面から評価します。
単に稼働時間だけでなく、実際の生産性や品質も考慮することで、設備の真の効率性を可視化し、改善すべき問題点を明確に特定できます。製造現場の生産性向上や競争力強化において欠かせない管理指標として、世界中の企業で活用されています。
設備総合効率の計算式
設備総合効率は「OEE=時間稼働率×性能稼働率×良品率」という計算式で求められます。この式は3つの重要な要素を掛け合わせることで、設備の総合的な効率を0から1(または0%から100%)の範囲で表現します。
各要素が独立して設備効率に影響を与えるため、どれか一つでも低下すると全体のOEEは大幅に下がります。例えば、各要素がそれぞれ90%の場合、OEEは0.9×0.9×0.9=0.729(72.9%)です。この計算式により、設備の問題点を定量的に把握し、改善の優先順位を明確にできます。
〇 時間稼働率
時間稼働率は、計画された稼働時間に対して実際に設備が稼働した時間の比率を表します。計算式は「実稼働時間÷負荷時間×100」で求められます。この指標では、故障による停止時間や段取り替え時間、調整時間などの予期しない停止時間が主な損失要因となります。
〇 性能稼働率
性能稼働率は、設備が本来持つ理論的な生産能力に対して、実際にどの程度の性能を発揮したかを示す指標です。計算式は「基準サイクルタイム×実際の生産数量÷実稼働時間×100」で求められます。この指標では、設備の速度低下、小停止、空運転などが主な損失要因となります。
〇 良品率
良品率は、生産された製品のうち品質基準を満たした良品の比率を表します。計算式は「良品数÷総生産数×100」で求められます。この指標では、不良品の発生、手直し作業、スクラップの発生などが主な損失要因となります。
設備総合効率を活用するメリット
設備総合効率を導入することで得られる3つのメリットについて説明します。
生産設備の効率性を定量的に把握できる
設備総合効率の最大のメリットは、設備の効率性を数値で客観的に評価できることです。従来の「調子が良い」「何となく悪い」といった感覚的な判断では、問題の深刻度や改善の必要性を正確に把握できませんでした。
しかしOEEを導入することで、設備の効率性を0%から100%の明確な数値で表現でき、異なる設備間の比較や時系列での変化を把握できます。
これにより、設備管理者は客観的なデータに基づいて意思決定を行うことができ、改善活動の効果も数値で確認できるようになります。
改善ポイントの優先順位が明確になる
設備総合効率は時間稼働率、性能稼働率、良品率の3つの要素で構成されているため、どの要素が最も効率低下の要因となっているかを特定できます。
例えば、時間稼働率が低い場合は設備故障や段取り替えの問題、性能稼働率が低い場合は速度低下や小停止の問題、良品率が低い場合は品質管理の問題と、課題を明確に分類できます。この分析により、限られた資源を最も効果的な改善活動に集中投入できるため、改善効果を最大化できます。
品質改善に活用できる
また、改善活動の成果を各要素別に追跡することで、取り組みの有効性を検証し、さらなる改善策の検討が可能になります。
設備総合効率の向上を目指す過程で実施される設備メンテナンスや予防保全の強化は、製造品質の向上に大きく寄与します。設備の状態が良好に保たれることで、製品の寸法精度や表面品質が安定し、不良品の発生率が大幅に減少するためです。
また、性能稼働率の改善により設備の運転条件が最適化されるため、品質のばらつきが抑制されます。さらに、良品率の向上を目指すことで品質管理体制そのものが強化され、検査精度の向上や作業標準の見直しが進むでしょう。
このように、OEEの改善活動は設備効率の向上だけでなく、製品品質の向上という相乗効果をもたらし、顧客満足度の向上と企業の競争力強化につながります。
設備総合効率が低下する原因と対策
製造現場で発生する7つの主要なロス要因と、それぞれが設備効率に与える影響を解説します。
- 故障による計画外停止
設備の突発的な故障は、時間稼働率に深刻な影響を与えるロス要因の一つです。故障が一度発生すると、設備は停止し、修理が完了するまで一切の生産活動ができなくなります。突発的な故障の発生は予測が困難であり、修理に要する時間も故障の内容によって大きく異なります。重要部品の故障の場合、数時間から数日間の停止を余儀なくされることもあります。
このような計画外停止を防ぐためには、予防保全の徹底、部品の定期交換・メンテナンスなどが不可欠です。また、故障履歴の分析により、故障パターンを把握し、予防的な対策を講じることで、故障による時間ロスを大幅に削減できます。 - 段取り・調整による時間ロス
製品の切り替え時に発生する段取り作業は、避けることのできない時間ロスですが、適切な管理により最小限に抑制することが可能です。段取り時間には、設備の清掃、治具の交換、パラメータの調整、試運転などの作業が含まれており、段取り時間の長さは、作業者のスキルレベル、標準化の程度、設備の設計などに大きく依存します。
そこでSMED(Single Minute Exchange of Dies)などの手法を活用し、段取り作業の標準化や並行作業の導入、治具の改善などを行うことで、段取り時間を大幅に短縮できます。また、生産計画の最適化により、段取り回数そのものを削減することも改善策の一つです。 - 立ち上がり時の効率低下
設備の起動時や製品切り替え後の立ち上がり期間中は、設備が安定した状態に達するまでに時間を要し、この期間中の効率低下が時間稼働率に影響します。立ち上がり時には、温度や圧力の安定化、材料の流れの調整、品質の確認などが必要であり、通常の生産速度に達するまでに相当な時間がかかることがあります。
この問題を解決するためには、設備の予熱システムの改善や立ち上がり手順の標準化、自動化の推進などが効果的です。また、設備の特性を十分に理解し、最適な立ち上がり条件を設定することで、安定化までの時間を大幅に短縮し、時間稼働率の向上を実現できます。 - 速度低下による性能悪化
設備の運転速度が設計値を下回ることで、理論的な生産能力を発揮できなくなり、性能稼働率の低下を招きます。速度低下の原因には、設備の摩耗や劣化、潤滑不良、材料の品質問題、作業者の技能不足などがあります。また、品質を優先するために意図的に速度を落とす場合もありますが、これも性能稼働率の低下要因となります。
速度低下を防ぐためには、定期的な設備メンテナンスや適切な潤滑管理、材料品質の改善、作業者の技能向上などが必要です。さらに、設備の能力を最大限に活用するための運転条件の最適化や、自動化による安定した運転の実現も有効です。 - チョコ停による細かな停止時間の蓄積
チョコ停とは、数秒から数分程度の短時間の停止を指し、個々の停止時間は短いものの、頻繁に発生することで累積的に大きな時間ロスとなります。チョコ停の原因には、材料の詰まり、センサーの誤動作、微細な異物の混入、設備の微小な不具合などがあります。これらの問題は一見軽微に見えますが、1日に何十回も発生すると、相当な時間ロスとなり、時間稼働率の大幅な低下を招きます。
チョコ停を削減するためには、予防保全の強化や作業環境の改善、センサーの調整などが必要です。また、チョコ停の発生状況を継続的に監視し、パターンを把握することで、根本的な対策を講じることが重要です。 - 不良品発生による品質ロス
不良品の発生は、良品率の低下を直接的に引き起こし、設備総合効率の大幅な低下につながります。不良品が発生すると、材料の無駄だけでなく、不良品の処理や手直し作業に時間を要し、さらなる効率低下を招きます。不良品発生の原因には、設備の精度不良、材料の品質問題、作業条件の不適切さ、作業者の技能不足などがあります。
解決のためには、品質管理体制の強化や検査システムの改善、作業標準の見直しなどが必要です。また、不良品の発生パターンを分析し、根本原因を特定することで、効果的な予防策を講じることができます。品質改善は顧客満足度の向上にも直結するため、継続的な取り組みが重要です。
不良品発生を抑えるには「【改善事例も】製造業における不良品発生の原因とは?効果的な対策方法を詳しく紹介!」もご覧ください。 - フィルター性能低下による品質トラブル
フィルターは、異物の除去、温度調整、湿度管理などの重要な役割を果たしており、その性能低下は製造プロセス全体に悪影響を与えます。フィルターの目詰まりや劣化により、流量の低下、圧力の上昇、品質の不安定化などが発生し、最終的には設備の緊急停止を余儀なくされることもあります。
この問題を防ぐためには、フィルターの定期的な点検・交換、適切な管理が不可欠です。特にフィルターの選定基準を見直し、使用環境に最適な仕様の高性能フィルターを選択することで、長期間にわたって安定した性能を維持できます。
設備総合効率改善の成功事例
製造現場で設備総合効率向上を実現した具体的な改善事例を紹介します。
ある製造現場では、従来使用していたフィルターの頻繁な交換により、設備の稼働率低下が深刻な課題となっていました。フィルターの目詰まりが交換しても早期に発生し、交換作業のために設備を頻繁に停止する必要があったため、時間稼働率が大幅に低下していました。
この問題を解決するため、焼結金網を使用した高強度フィルターを導入しました。焼結金網により大幅にフィルター強度が向上し、従来品と比較して交換圧力を高く設定できるようになりました。その結果、フィルターの交換周期を従来よりも大幅に延長することが可能となり、設備停止時間も削減されました。この改善により時間稼働率は向上し、設備総合効率改善を実現しました。
設備総合効率向上は小さな改善の積み重ねから
設備総合効率の向上は、大規模な設備投資だけでなく、日々の小さな改善活動の積み重ねによって実現できます。まずは現状の設備総合効率を正確に把握し、7大ロスの中で最も影響の大きい要因から改善に取り組むことをおすすめします。継続的な改善活動により、必ず生産性向上という成果につながるはずです。特にフィルター性能の見直しは、よく見落とされがちなポイントのため、この機会に高性能なフィルターに切り替えると設備総合効率向上に貢献するでしょう。
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